データの種類によって、AI の伸び方はどう違うのか?

複数分野でのスケーリング実験と、その違いを説明するための研究

シュナイダージヤン

GPU を 10 台、3か月使えるとしたら?

予測したい課題は決まっている。計算予算をどう使うか?

勘で決める

大きなモデルをいくつか作り
できるだけ学習させる

あとは結果を待つ

スケーリング法則を使う

小さく試して
本番の配分を予測する

予測が当たるかも確かめる

小さな実験から予測し、大きな実験で確かめる。

予算の配分を見直すと、小さいモデルが勝つこともある

Hoffmann ら Figure 1。計算量に対する最適モデル規模の予測。Kaplan らの破線と Hoffmann らの三つの推定方法の実線を比較。

破線:Kaplan (2020) / 実線:Hoffmann (2022) の三つの推定方法

同程度の学習計算量で、小さい Chinchilla の方が高性能だった。

図:Hoffmann et al. (2022), Fig. 1。破線:Kaplan et al. (2020)。横軸=学習計算量、縦軸=パラメータ数(性能の図ではない)。

「増やせばよくなる」から「どれだけよくなるか」へ

損失=未学習のデータで測る、予測誤差の指標

小規模実験に曲線を当てはめ、大規模での予測誤差を外挿する概念図

L(D) = E + A D−β

説明用の概念図(実測値ではない)/ D:データ量、E:推定下限、β:改善の速さ

文章と音声では、計算量を増やしたときの伸び方が違う

■ LLM:文章の言語モデル ● SLM:音声の言語モデル

Cuervo と Marxer の Figure 2。横軸は学習計算量、縦軸は三つの言語能力評価の正答率。文章と音声で改善の傾向が異なる。

横軸:学習計算量 / 縦軸:正答率(高いほどよい)

この違いは、データの何から生まれるのか?

Cuervo & Marxer (2024), Figure 2(CC BY 4.0)。データ・トークン化・学習条件も異なる比較。

自分の研究:複数分野でモデルを学習し、伸び方を調べてきた

分野 取り組み・現在の状況 現時点の観察
音声 音声生成モデルの開発 本発表では結果の詳細を扱わない
エピゲノム Mamba2・GDN2・SH2 で実験 スケーリング則を観察。α・β が言語の参照値と異なる
電子カルテ(EHR) 実験を継続中 指数について予備的な傾向を観察
金融 限られた設定で試行 明確なスケーリング則はまだ得られていない

同じように規模を増やしても、改善の仕方は一様ではない。

分野ごとにモデル・予測課題・学習条件が異なる段階での観察。

注目しているのは、当てはまりではなく「改善の速さ」

L(N, D) ≈ E + A N−α + B D−β

N:モデル規模 / D:学習データ量 / α・β:各項の減り方を表す指数

指数の違い

エピゲノムでは比較的大きく、
EHR ではそれより小さい傾向
(現時点の予備的な比較)

配分の違い

エピゲノムでは、言語の参照設定より
パラメータ増加に比重を置く配分を示唆

大きな指数 ≠ よい当てはまり(R²)

指数だけで分野の「難しさ」は決まらない。金融は指数の大小を比較できる段階ではない。

次の研究:何を変えると、伸び方が変わるのか?

切り分けたいこと 次に検討している比較
実験・推定の問題か? 学習設定、反復実験、測定する規模の範囲を確認
データの量か、含まれる情報か? EHR で患者数と一人あたりの情報量を分ける
時間による分布変化か? 金融で評価する時期・時間的な距離による違いを調べる

曲線の違いを観察する段階から、
条件を変えて理由を検証する段階へ。

まず EHR の実験を進め、既存のモデル・データを使って説明候補を絞る。

「どれだけ伸びるか」を予測し、「なぜ違うか」を理解したい

スケーリング法則の実用的な価値

小さく試し、
大きな投資の効果を予測する

私が研究で目指すこと

データの種類をまたいで、
学習のしやすさの違いを説明する

データと学習設定のどんな性質が、改善の速さを決めるのか?

これまで:複数分野での観察 / 次へ:条件を変えて説明候補を検証する。

補足:スケーリング法則の研究の広がり

研究の問い 何を調べる? 論文の例
予算をどう配分する? モデル規模と学習量 Hoffmann et al. (2022)
データが足りないときは? 同じデータを反復する価値 Muennighoff et al. (2023)
なぜスケーリングが起きる? 小課題へのニューロンの配分という仮説 Song et al. (2024)
データの種類が変わると? 文章と音声の改善の違い Cuervo & Marxer (2024)

補足:モデル規模と学習量を同時に考える

L(N, D) = E + A N−α + B D−β

N:パラメータ数 / D:処理した学習トークン数

C ≈ 6ND

密な Transformer の学習計算量の近似。系列長などの影響を省略。

固定した C の下で、L が小さくなる N と D を探す。

Hoffmann et al. (2022)。すべての研究がこの関数形・定義を使うわけではない。

補足:同じ計算量で比べる(IsoFLOP)

Hoffmann らの IsoFLOP 曲線と計算最適なモデル・データ配分

同じ色の曲線=同じ計算予算。曲線の最小点が配分の候補。

Hoffmann et al. (2022)。昨年の発表で使った図。

補足:学習曲線の研究には長い歴史がある

年 位置づけ
1992 Seung ・ Sompolinsky ・ Tishby:学習の統計力学
2017 Hestness ら:複数分野での経験的なスケーリング
2020 Kaplan ら:言語モデルの規模と損失
2022 Hoffmann ら:計算予算の配分と Chinchilla

(Seung et al., 1992; Hestness et al., 2017; Kaplan et al., 2020; Hoffmann et al., 2022)

補足:音声の結果は、評価課題と設定に依存する

Cuervo と Marxer の Figure 2 全体、文法と意味理解の三つの評価

  • 文法・話題・物語の結末で、改善の速さは異なる
  • 文章と音声では、データ・トークン化・学習条件も異なる
  • 指数の比だけから、一定の計算量倍率は決まらない

Cuervo & Marxer (2024), Figure 2(CC BY 4.0)。

補足:下限が高いのか、改善が遅いのか?

  • 狭い規模の範囲では、どちらも似た曲線に見える
  • 広い規模、反復実験、推定の不確実性、別の関数形で確認する
  • 同じ予測対象で、入力情報への介入を比較する
  • 頭打ちだけでは、不可約誤差・容量不足・学習不足を区別できない

参考文献

Cuervo & Marxer (2024). Scaling Properties of Speech Language Models. https://doi.org/10.18653/v1/2024.emnlp-main.21.
Hestness et al. (2017). Deep Learning Scaling is Predictable, Empirically. https://arxiv.org/abs/1712.00409.
Hoffmann et al. (2022). Training Compute-Optimal Large Language Models. https://doi.org/10.48550/arXiv.2203.15556.
Kaplan et al. (2020). Scaling Laws for Neural Language Models. https://doi.org/10.48550/arXiv.2001.08361.
Muennighoff et al. (2023). Scaling Data-Constrained Language Models. https://arxiv.org/abs/2305.16264.
Seung et al. (1992). Statistical mechanics of learning from examples. https://doi.org/10.1103/PhysRevA.45.6056.
Song et al. (2024). A Resource Model For Neural Scaling Law. https://doi.org/10.48550/arXiv.2402.05164.